世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか

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世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか、を読んだ

【印象的な部分まとめ】
世界はMBAからMFAへ、芸術学博士が重要視
論理的アプローチには限界がある、正解のコモディティ化に陥る
複雑化した世界への単純化モデルの思考(論理)によるアプローチの限界
5大欲求のうち論理的アプローチは下位欲求しか充足できない、承認欲求や自己実現欲求は感性的アプローチでしか解決できない
測定できないものは管理できない、という考えは誤り
測定できないものはリーダーの美意識で判断するしかない
美意識とは、真善美を判断するための認識のモードのこと
真善美はそれぞれイマヌエル・カント純粋理性批判実践理性批判判断力批判に該当し、美しいとは何らかの普遍的妥当性があるということを記述している
複雑化し数値化が困難な現代ではカント的な美意識、なんだかよくわからないが合理的だと思える価値観というのも重要な意識
感性でモノ作りをしているのがソニーウォークマン)、直感でモノ作りをしているのがスティーブ・ジョブズ
日本人は知的生産や意思決定において、論理・理性を直感・感性より高く評価する傾向がある
失敗は論理的に説明できるが、成功は超論理的であり、論理では説明不可能
論理的アプローチには時間がかかる、かつ論理的アプローチで白黒つかないとき最終的に頼れるのは個人による美意識
欧州エリートは400年前から哲学による美意識の育成を実施
フランスの高校生は、1.理性は全てを説明できるのか?2.芸術作品は必然的に美しいのか?3.ホッブズリヴァイアサンからの抜粋に関して論述せよ、という3つの主題に関して4時間論述せよ、という問題に答えられるよう訓練されている
論理的アプローチはスピードとコストでしか差別化できない
スピードとコストでの差別化は従業員を疲弊させる、これが今の日本企業が陥っている状況
経営における意思決定のクオリティはアート、サイエンス、クラフトで決まる、それぞれビジョン、裏付け、実行力に該当する
アート、サイエンス、クラフトを戦わせると、分析結果を説明できるサイエンス、過去実績を説明できるクラフトに対し、何となくしか説明できないアートは議論で負けやすい
説明できる、再現性があるという点で、それを持たないアート側つまり天才は否定されるシステム
アカウンタビリティーとは、逆説的に説明責任を果たせば失敗しても仕方ないという無責任なシステムを誘発する
PDCAのPをアート型人材、Dをクラフト型人材、Cをサイエンス型人材に置けばバランスがとれる、ディズニーやアップル、ホンダ、ソフトバンクが典型例
チャーチルヒトラーが絵描きだったのは偶然ではなく、絵を描くことがリーダーに求められる認識能力を高めることがわかっており、芸術的な趣味を実践している人ほど知的パフォーマンスが高いという統計結果が出ている
千利休は世界初のチーフクリエイティブオフィサーだった
侘びという抽象度の高い美的感覚を茶室や茶碗に落とし込み、それを自ら製作するのではなくクリエイティブディレクターとして職人をプロデュースしていた
ユニクロ無印良品ともに、経営とアートのガバナンスを分化することでデザインの競争力を維持
デザインと経営には共通点がある、エッセンスをすくい取りそれ以外捨てること
デザイン、コピー、ビジョン、経営全て選択と捨象の結果
優れた意思決定とは選ぶことではなく捨てること
経営陣の仕事は経営というゲームの戦略を考える、ゲームのルールを変えること
何をしたいのか、世界をどう変えたいのかというミッションやパッションによる意思決定が重要、そのために美意識が重要
浮かんだアイデアが優れているかの判断は美意識がないとできない
日本企業にはビジョンがない、それはビジョンが必要なかったから、アメリカの尻を追いかけていればよかったから、でもトップになってしまったら改めてビジョンを考える必要がある
ビジョンは数値的目標や命令とは違う、聞いて共感したくなるようなものでないといけない
トラウマとしての空気の支配の過剰反応
自己実現社会の到来で、全ての企業はファッションビジネス化する
イノベーションとは世界観とストーリー
デザインとテクノロジーはコピー可能だが世界観とストーリーはコピー不可能、高い美意識がないと構築不可能
言語化できることはコピー可能ということ
システムが複雑化するとそれに対応する法整備が追いつかない
美意識を鍛えるのは犯罪抑制のため
達成動機、親和動機、パワー動機のうち、達成動機が強すぎると目標達成のために犯罪を犯すことがある
偏差値は高いが美意識が低いのは危険、オウム真理教信者になる
論理的アプローチだけで世の中のトップに立てる、頑張ればヒエラルキーの頂点に立てるという錯覚がサイエンス型人材の暴走に繋がる(実社会は不合理と不条理に満ちているから)
戦略コンサル企業と新興ベンチャー企業オウム真理教的システムに近い、階層的でシステマティック
システムへの適応とQOL向上はベクトルが違う
美意識とはメタ認知能力
自分の中にある基準をもとに誠実性を発揮できる人
所属している会社や組織のために行動してもそれが悪であることもある
悪とはシステムを無批判に享受すること、陳腐であること
ユダヤ人虐殺に加担したアイヒマンユダヤ人が嫌いだったわけではなく出世のために行った平凡な人(ハンナアーレント
解決策はシステムの相対化、自分の美意識による判断
システムを修正できるのはシステムに適応している人であり、システムから否定されている人にはできない
これまで美の決定権は顧客にあった、なぜならデザインの決定プロセスでマーケティング調査によるデザイン評価が個人的な美の基準より優先されていたから、でもこれからグローバル化に対応するには、より美的感覚の優れた国にデザインで勝負するには、市場調査の奴隷になってはいけない、市場の美的感覚を高水準に保つためには上から目線でいる必要がある
市場という外部から、自分の美意識という内部への判断基準の転換
真=直感、善=倫理・道徳、美=美的感覚
マツダの自動車はこれまでの日本車の評価である品質、機能、コスパではなく日本的美のデザインにより評価された=動・凛・艶
自動車デザインを牽引してきたのはイタリア、ドイツ、もともと車は馬車=上流階級の自己顕示欲誇示のための道具だから徹底的にデザインを洗練させてきた、マツダはその欧州的文脈とは別の日本的スピリットを注入
顧客に好まれるデザイン=問題解決的アプローチではなく、顧客を魅了するデザイン=創造的アプローチ
センスの悪い顧客の選好を交えさせない、そのデザインに対し自分がいいと思えるかどうか、そこにアカウンタビリティーはむしろ邪魔になる
VTS(ビジュアルシンキングストラテジーつまり観察眼を鍛えるトレーニング)をせよ
見る力を鍛えることでパターン認識のストックができる(パターン認識から自由になれる)
哲学を勉強せよ
海外では哲学→功利の順に勉強、日本は逆
哲学ではコンテンツ・プロセス・モードを学べる、要は中身そのものとそこに至る過程とその哲学の世界や社会を見つめるビジョンを知れる
文学、詩を読む
ダイアログだけでなくレトリックも重要
メタファーの引き出しを増やす
リーダーができる仕事はコミュニケーションしかない

【感想】
ちょっとビックリした。自分もイマヌエル・カントの真善美の視点で世界を再整理しようとしていた矢先にこの本で真善美の記述を見て、思考とインスピレーションが一致したので。
さらに言うと、マイケル・サンデル教授(懐かしいね)の功利主義リバタリアニズムコミュニタリアニズムの3点視点もフレームとして活かせないか考えていたところで、リバタリアニズムコミュニタリアニズムの話とデザインの美的感覚の話はそう遠くないような気もする
結局論理とは人に説明するための道具に過ぎないのにそれを目的化するのはアホらしいということ。でもそのアホらしいと思う論理のプロセスを紐解く訓練は絶対必要だし、仕事じゃなく趣味でやってる分にはメッチャ楽しい
そして話を聞けば聞くほど宇野常寛という評論家としての凄さと一致する。
宇野さんは評論家の中でも異色で、精神分析的アプローチで、要は無意識の意識化、メタ認知能力による分析力が圧倒的で、そういう視点を持てという本書の内容に一致するし、見る力を鍛えることによるパターン認識の多様化は、宇野さんが言う評論=世界観の変革という話にもつながる
んで、自分が大好きなアニメ評論や映画評論って、本書にある美的感覚を鍛えるための観察トレーニングに近いと思ってて、視覚から作家の無意識や描きたい事象の意図を読み取る能力ってまさにVTSだから、評論はそんなにバカにはできないのではと思う
というか著者はこの本の前の著書では評論家をバカにしてたのに本書では評論行為を持ち上げていて、どっちやねんという感じ
歴史は進歩し続けるわけではない、そう思ってしまうのが人間の過ちとも書かれてるけど、おいちょっと待ってくれ、それはあくまで西洋哲学だけで、東洋哲学は歴史の繰り返しという世界観持ってるよ、とも言いたいし、改めてそんな東洋哲学を学んだからこそスティーブ・ジョブズiPhoneを作れた、という、東洋哲学を改めて学ぶ必要性を再認識させられた
美的感覚を鍛えるには周りの人の質も大事というのは、最近流行りのコミュニティ論、クローズドなオンラインサロンの勃興とも関連してると思ったし、そういう意味では示唆になった
自分が感じたのは、エリートとは、システムの内部でインセンティブを享受できる強者なのに、自分の美意識がシステムの改変を求めた時にはデメリットを請け負ってでもシステム改変を躊躇せず実行できる、自分の心の声に素直になれる人のことだと思った