ヴェノムはなぜかわいいのか

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ヴェノムの感想まとめ。

 


ヴェノムって意外とかわいいよね、という小学生レベルの感想文で終わらせる気はありません。

問題は、なぜヴェノムはかわいいのか、可愛く「なってしまったのか」です。

そのあたりをしっかり分析しました。

補助線は、グローバル化と、ウルトラマンと怪獣と四方田犬彦の「かわいい」論あたりを参考にさせて頂きました。

 


■正義と悪の二分が成立しない時代

ハリウッドお得意の、正義が悪を倒すという図式は、ダークナイト以降成立しなくなりました。

アメリカという正義の執行自体が悪であるという見方が出来てしまうからというポスト構造主義の問題もそうですし、ハリウッド映画は膨大な予算がかかるため、70億人つまり全人類をターゲットに勝負しないと回収できないので、アメリカだけが正義というお話ではマーケット的に売れず、悪を設定しづらいという商業的要請からの制約もあるからです。

 


■悪の再設定

そんなわけで、以前とは違う、新しい悪を設定する必要が出ました。

そこで本作のアイデアが、「悪は狂暴に見えてかわいい」「悪は自分の中にある」という設定。

悪は外に置いてしまうと誰かを批判することになり、炎上してしまう。

だから、悪は自分の中にあり、それとうまく付き合いながら飼いならす時代なのだ、という設定にせざるを得ないのです。

余談ですが、敵を心の中のものに設定するのはウルトラマンAで開発されて以降頻繁に使われる手法です。

この時は、政治で世界を変えるというフロンティア精神が敗北し、内面の時代に入っていったことでその外ではなく内に敵を設定する手法が開発されました。

 


一方、悪は凶暴に見えてかわいい、というのは、ウルトラマンに出てくる怪獣がそうでしょう。

なぜなのかは、四方田犬彦の「かわいい」論にあるように、かわいいとは、グロテスクさと紙一重にあるからです。

なぜかというと、これは仮説ですが、かわいいというのは、その対象物を支配下にできている状態を指します。

かわいいは可哀想が起源なので、上から目線で支配している状態から支配主が言う言葉です。

対して凶暴性というのは、支配下に出来ていない、得体の知れない状態のことを指します。

ヴェノムが凶暴なのに可愛いのは、最初は得体の知れない支配下に置けないものを、徐々に飼いならしていく過程で分かり合えていくからなのです。

 


■悪の正体

では、そのヴェノム(悪)の正体は何なのか。

結論から言うと、過去のハリウッド映画自身です。

ヒントは、暴力性と男性性の失墜です。

 


ヴェノムは暴力を好みます。

これは、映画のシーンを見るとわかるのですが、まるで昔の(90年代までの)ハリウッドアクションそのものです。

ヴェノムは、ハリウッドアクションをオマージュしているのです。

なぜかというと、ハリウッドアクションという、男性暴力主義自体を悪と設定し、強さ(暴力)こそが正義というハリウッド映画を批判することがテーマだからです。

 


そして男性性の失墜。

主人公もヴェノムも弱さを見せるシーンがあります。

これは、ハリウッド映画の主人公は決して弱さを見せてはいけない、という設定に対するアンチテーゼです。

そもそもGIジョー的な、肉体も精神も強くあれという男性像へのアンチテーゼとしてスパイダーマンが描かれ、スパイダーマンのスピンオフなのでその設定になるのは必然ですが。

 


ということで、ヴェノムがかわいいのは、悪の再設定の必要性というマーケット上の要請と、その一つのソリューションとしてのハリウッド映画批判が理由となります。

 


ハリウッド映画史上最も残虐な悪とは、ハリウッド映画を批判しなければならない状況への残酷さ、過去ハリウッド映画がしてきた描写の残虐さそのものなのです。