銀魂2の感想
銀魂2 掟は破るためにこそある、の感想。
映画館が爆笑に包まれたかと思いきや、今度は嗚咽が聞こえてきてみんなシクシク泣いていたりして、ちょっと異常な光景でした。
9割が下ネタ中心のギャグアニメなので、こんなに人って泣くんだ、とビックリしました。
私も、アニメ版銀魂で一番腹筋崩壊したシーンと涙腺崩壊したシーンが入っていて、マーケティングされているなあと思いましたが、完璧にやられました。
人って爆笑したあと号泣して、数秒後に爆笑できるものなのか、と。
改めて銀魂の落差の魔術と、過去の偉大なアニメへの尊敬から来るオマージュの幅広さに感服しました。
これを許した日テレさん、フジテレビさん、テレ朝さんも素晴らしいと思います。
生きている間に、こんな映画にあと何回出逢えるのか。。。
久しぶりにシーンを見たことで改めて気づいたところもあったので、感想書きたいと思います。
銀魂を愛する全てのファンへ。
銀魂を愛する者より。愛を込めて。
※銀魂第1作含めネタバレします
■銀魂実写版前作の凄さのおさらい
日本ではアニメの実写化に失敗する傾向がある中で、前作の銀魂は下記の5つの要因で大成功したと思っております。
1.ストーリーの質(ベタ視点)
2.原作イジり(メタ視点)
3.キャスティングイジり(タレント)
4.時事ネタ(リアルタイム性)
5.ドキュメンタリー(アドリブ)
要は、ベタにストーリーが面白く、でも実写なので当然原作と違う部分があり、それを自らイジり、タレントのほかの仕事や人間関係をイジり、映画公開タイミングでホットだった時事ネタをイジり、完璧なカットだけでなくあえてアドリブを入れされNGシーンっぽくてもそのまま映像化してしまう、という手法です。
ほとんどの実写映画は1の原作部分をいかに忠実に再現するか、あるいは逆張りで裏切るかのどちらかで、前者なら実写化する必要がないですし、後者は原作ファンの怒りを買って失敗して終わります。
でも銀魂実写版は、2~5の視点があることで、原作(漫画・アニメ)には出来ない、映画内での原作イジり、タレントイジり、映画公開時の時事ネタイジり、映像にしかできないアドリブ性を活用し、大成功したのです。
これも、福田雄一監督の手腕に尽きます。
■第1作との比較
では今回は、前作とどう違うか。
「1.ストーリーの質の部分」に重点を置いてきたと思います。
今回は、原作ファンの中でもかなりギャグ回として人気の将軍ネタと、シリアス回として人気の真選組動乱篇を入れてきました。
しっかりマーケティングしており、ギャグもシリアスもクオリティが高めなので、ファン層寄りに見えつつも、新規層を十分狙えるものだったと思います。
もちろん、イジりネタもあり、冒頭から映画泥棒ネタや俳優・小栗旬と菅田将暉をイジるタレントネタや、前回好評だった佐藤二朗のアドリブネタが投下されましたが、前回よりバランスが悪いというか、全部前半にしつこいくらいネタを詰め込んだ印象があります。
これはおそらく、後半のシリアス篇を盛り上げるために前半に詰め込まざるを得なかったのだと思います。
また、前回は原作ファンによる実写化批判をいかに跳ね返すかという課題もあり、原作イジり(特にエリザベス実写化イジり)が効果的でしたが、原作ファンにも好評で、消費され尽くしたので、今回はもう使えなかったことも大きかったと思います。
その分後半からラストのシリアスなシーンは爆発力がありましたし、その中でも随所に危ないギャグを入れて笑いを誘う、そのバランス能力の高さは素晴らしいと思います。
■テーマその1:絆
では、評論に入りたいと思います。
面向きのテーマは、タイトルにあるような、掟破りの著作権無視のパロディし放題のギャグをやっていくぜ!ということですが、裏テーマは、絆だと思います。
ストーリー上では、ヒール役の伊東鴨太郎が孤独を克服するために成り上がるが誰にも理解されず、最後に仲間の絆に気づくという話ですが、特に後半、絆・繋がり(あるいは遮断)を示すモチーフが多く出てきます。(ちなみに、名前の由来は違いますが、鴨太郎という名前から、ストーリー上では最終的にカモにされる、ということがわかるキャラ名になっています)
まずは列車です。
近藤局長を助けるため、沖田が車両の接続部分を切り離し、局長を閉じ込めます。
これは、局長との関係を切断してでも局長を助けたいという沖田の想いを表現しています。
(ちなみに沖田は裏切り者を次々に斬り殺すアクションシーンがありますが、あれはアクションシーン自体に意味があるのではなく、裏切り者に対しては絆を切るキャラということを暗示させるためだと思います)
次に鴨太郎の腕です。
列車の爆発により、鴨太郎の左腕が切断されます。
これは、仲間との絆を切断した(裏切った)罪を表現しています。
その後鴨太郎は落下しそうになりますが、局長が鴨太郎の右腕を掴み、その局長を沖田、新八、神楽が支えます。
ここで、切断しかかった絆の再接続が表現されています。
そして最後、土方との決闘の後、真選組との絆の復活を黄色い糸で表現して終わります。
つまり、鴨太郎視点では、一度切れた絆を繋ぎ直して終われた、という話になっています。
ここで忘れてはならないのは、主人公の銀さんの視点です。
銀さんはこの間、鬼兵隊の河上万斉と決闘します。
万斉がワイヤーのようなもので銀さんの手足を縛り付け、銀さんは引きちぎろうとしますが、逆に手足がもげそうになります。
万斉からも、そのまま抵抗すると手足が切れるぞ、と言われます。
しかしギリギリのところで銀さんははねのけ、ワイヤーの方が切れます。
これが意味するところは、鴨太郎との対比です。
鴨太郎は仲間を裏切り、腕が切れました。
しかし銀さんは、仲間を裏切らない存在なので、絶対に手足は切れないのです。
万斉に、なぜお前はそこまでするのか?と問われます。
明言はしませんが、映像から、仲間の為であることがわかります。
このワイヤーを使ったアクションシーンも非常に冗長に感じる方もいたと思いましたが、このアクションシーンも、仲間を裏切らない銀さんと、裏切ってしまった鴨太郎の対比を表現するためなのです。
■テーマその2:ヘタレ
そもそも土方がヘタレアニメオタクになったことがきっかけで(というかそれも鴨太郎の陰謀で)真選組が混乱することになったのですが、その土方がヘタレになったのは、自分のヘタレな部分を強化するチップを打ち込まれたことによりヘタレになった、という設定になっています。
その後、エヴァのシンジ君のパロディがあり、シミュレーションゲームをやりますが、克服できず、最終的には銀さんの荒療治と自身の克服によってヘタレを突破していきます。
ここ、ギャグシーンなのですが、非常に興味深いです。
なぜなら、エヴァのシンジ君は、AC(アダルトチルドレン)と分析されることが多いからです。
そして鴨太郎が仲間を裏切るようになった過去も、理解者を得られず、親からも承認欲求を得られなかった存在、つまりアダルトチルドレン的存在として描写されているのです。
つまり、ヘタレアニメオタクになった土方と、幼少期から承認欲求を得られなかった鴨太郎は、同じヘタレ的な存在として重ねられるように描写されているのです。
もっと言うと、銀さんだって、普段はほぼニートのヘタレです。
登場人物全てが何かしらのヘタレな部分を持っているのです。
人間は誰しもが、ヘタレな部分を持っている。
問題は、それをどう考えるのか、です。
鴨太郎は、ヘタレな自分を克服したように見えて、自分を理解してくれない周りに復讐しようとし、高杉に魂を売ってしまいました。
土方は、銀さんの助けもありながら、局長を守るためにヘタレを克服しました。
銀さんは、普段はヘタレですが、やる時はやる、主人公補正がかかりました。
銀さんの場合は、仲間のために男気スイッチが入るのでしょう。
人間はヘタレだけど、魂までは売っちゃダメで、そうならないためにも仲間の助けがいるのだ、ということがわかります。
■テーマその3:承認欲求という自意識
上記で書いたように、周りから理解されない、それは周りがバカだからだ、という鴨太郎のような自意識は、非常に厄介です。
そしてこれは、制作側の意識でもあると思うのです。
映画をヒットさせるには、原作ファンだけが楽しめるものではダメで、今旬のタレントを使って新規層を集客しないといけない、でもそれは本当にやりたいことなのか?本当に作りたい映像なのか?と。
鴨太郎の悩みは、制作側の意識そのものだと思いました。
と同時に、最後の山崎の葬式のシーンには救われました。
彼は最後、実は生きていた、ということがどうでもいいこととして描写され、それでも土方が戻ってきてみんなが喜んでいるのならまぁいいか、という風に、自己承認欲求を一旦横に置きました。
人間は、別に承認欲求が必ずしも満たされなければいけないわけではない、そんなものは幻想である、という山崎的な視点で終わらせるのが、素晴らしかったですし、このシーンで救われた方も多かったと思います。
■テーマその4:戦略
少々話が逸れるかもしれませんが、松平片栗虎の凄さについて言及します。
みな、剣術の強さで大事な人を守る中、キャバクラ通いのヘタレなオッサンの松平が、将軍を襲われそうになりましたが、実は将軍は偽物で、本物は別のところにいる、というシーンがありました。
これは、さすがだと思いました。
戦って勝つのではなく、戦わずして勝つ、まさに戦いを省略することそれ即ち戦略というお手本であり、ただのキャバクラ好きのオッサンではないということをサラッと描写しているのが凄いと思いました。
■最後に
色々書きましたが、銀魂の凄いところは、何度観ても飽きないところだと思います。
初めて観るストーリーがどんなものなのだろう?というドキドキではなく、もう何度も観ていて十分知っているのに、内容は分かっているのに、観る度に笑ってしまう、泣いてしまう、という魅力です。
歌舞伎的なものですかね。
なので、リピートしたくなりますし、観たことがない方には、本当に一度でいいから観て欲しいと思いました。
銀魂に出逢えて、本当に良かったです。