グレイテストショーマンの感想

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グレイテスト・ショーマンの感想
ネタバレ全開でいくぜ!
■あらすじ
サーカスを始めた男が栄光や挫折を経て最後はハッピー!な話
■感想
評判通り、表層上は音楽最高、ストーリー最低、で合ってる。
観客の「感動!」「音楽最高!」の紋切り型感想を聞いて、1,800円払ってそれだけならYoutubeでも見とけや!と思ったあなた、半分正解で半分間違い。
本作はYoutubeGoogleと、ディズニーの批評映画なの。
ここからネタバレすっからー。
前提として本作は、映画を要素分解し、音楽と映像とキャラとストーリーのうち、音楽と映像に特化し、キャラとストーリーを捨てているので、ストーリーが最低なのは当然。
貧乏から金持ちに成り上がり、最後はお金じゃなくて仲間が大事!愛する人と結ばれる!とベタなストーリーなのは、意図的。キャラへの感情移入を避けるための仕掛け。
本作はGoogle的な比喩が連発される。
主人公のバーナムは自分を詐欺師・ペテン師と言うし、冒頭意訳すると「このショーは何も考えず偏差値下げて観てください」と宣言するし、登場人物の内面も細かい描写はカットでざっくりまとめだけで、音楽中心、メッセージはざっくり、「ありのままでいい」=現状追認!な感じ。
これは、GoogleYoutube(何も考えず見れますよー)の比喩。
バーナムが「人々はゾッとするものを求める」とマイノリティを集めサーカスショーを行うのは、人間が何も考えずに自分はこのままでいいと現状追認するためにはマイノリティショーとしての他人の物語か自分が輝く物語が必要だから。この場合のサーカスは、ローマ時代の「パンとサーカス」、愚民大衆を誤魔化す娯楽の意で、後者の自分の物語というのが、バーナム自身であり、かつ観賞者自身つまり俺ら。
もっというと、映画という「他人の物語」の観賞に集中できないなら、「This is me」(これって自分のことだ!)という「自分の物語」として映像をエンタメ化・自分ゴト化すれば愚民大衆でも映画見るでしょ?そのためには登場人物の内面カット!自分ゴト化(バーナム効果)発動!なの。
バーナム効果は心理学を応用した詐欺・ペテンのこと。
要はおすすめのYoutube無料動画をレコメンドされるのと、自分ゴト化できる壮大な音楽付きの有料映画を比較したとき、後者の方が快楽のコスパがいいよ、という批評性を持つ映画。で、無意識的に後者を支持する一定層がいたからヒットした。
「ありのままでいい」の歌詞は、アナ雪=ディズニー批評だね。アナ雪では「ありのまま」だと他者と折り合いがつかないから、最後妥協するし、次作のズートピアではアナ雪批判、自己反省を行い、虚構=他人の物語への感情移入としての作品へ回帰させたのに、本作は開き直ってありのまま全面肯定している。
でも愚民大衆はそちらを支持した、それでいいのだ、と。
Googleの自分の物語志向とディズニーの他人の物語志向の間を取り、一見他人の物語を介しているように見せて実は自分の物語に没入できるというアクロバティックな手法を取った、そしてその思惑が、現実化した。計算通りだね。
そんな映画には騙されない!という批評的視点を持った人すらバカにし、批評家、批評的視点をも巻き込んでいく。
本作で「本物」と「偽物」、「夢」と「現実」の言葉が連発される。
全ては偽物だから、批評する価値などない、でもベースは史実(本物)だと。夢物語であるようだが、実際にヒットした現実があると。
最も崇高な芸術とは、人を幸せにすることであり、映画としての完成度(上手いか下手か)ではなく、それを見て笑顔になれるか(好きか嫌いか)だと。
映画は21世紀には一部の知的エリートの教養として消費されて終わる。19世紀の大衆小説が20世紀にそうだったように。としたり顔でいう評論家に、そんな偏差値の高い芸術品としての映画ではなく、愚民大衆に愚民と言ってもいいから、アカデミー賞獲れなくていいから、感動を最大化させてやる、と割りきった作品。
過去映画のオマージュが一切ないのも、自分ゴト化の阻害要因を徹底排除するため。
このシーンがこの映画のパロディ、という他人の物語が入る隙を潰し、感動し易い回路(=自分の物語)への没入に特化。
監督の本音は、ラストシーンに出ていると思う。
映画の在り方は愚民大衆の自分ゴト化のネタでいい、とは思ってない。
最後残った仲間は、映画好きというマイノリティの比喩で、彼らだけでサーカスという名の映画館を維持させる、つまり最終的にはお金を出し合って映画を延命させると。具体的にはサブスクリプションサービス(課金制)。
自分の物語にしか興味がない愚民大衆は「ありのまま」=現状追認でいいけど、映画好きは金出して映画見てよ、俺も映画作る、という監督の意志を感じた。